都立武蔵文芸部 デジタル部誌サイト

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村と都市

 私は、ある「村」に住んでいる女子高生だ。

 バスは数時間に一本、電車はない代わりに、森がたくさん生い茂っおり、生物も多種多様である。

 学校には、自転車で三十分、電車で三十分かけて行っている。

 今は夏休みであり、蝉がぎゃんぎゃん泣いている。

 私はとある道路の山道を自転車で走らせていた。

 そこは崖がとても急であり、森だらけである。

 坂道を下っていると、突然、熊が出た。

 熊くらい出ることは知っていたが、いざ間近で見ると、恐いものだ。

 だからと言って、迫ってくるわけでもなかろうと思い、静かに引き下がろうとした。

 しかし、その熊は、こちらを向くと、目が合ってしまった。

 


 どのくらい経っただろうか。

 熊と見つめ合って、三分くらい固まっている。

 突然、その熊は歯ぎしりをして、目が光ったような気がした。

 私はいきなり怖くなり、急いでその坂道を駆け上がった。

 私の心臓はとても跳ね上がっていた。

 刹那、その熊は坂道をどんどんという力強く重い音とともに上ってきた。

 ハアハアゼエゼエ言いながら、ひたすらに走った。

 少しずつ距離が近づいている。

 とにかく、分かれ道まで逃げようと、無心で走った。

 でも、タイミングが悪かった。

 私がある程度走って登っていると、突然何かの動物の影を感じて、その瞬間、目の前に狸が現れた。

 そのタヌキをよけようと、自転車の方向を曲げた。

 すると、ふらついて、自転車をその場に倒してしまった。

 迫ってくる熊。

 照りまくる灼熱の太陽。

 その中で私自身も、力尽きてしまい、倒れてしまった。

 しかし、頭は地に付かなかった。体全体が放り投げられた気がした。

 そう、私は、してしまった。

 崖から、落ちた。

 「きゃああああ!!」

 


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 ただ平凡な男子高校生の僕は、近くの公園で少し休憩をしていた。

 歩き疲れたのだ。

 熱いし、景色は変り映えない住宅街だし、人はたくさんいるし。

 都会はもう、飽きてきた。

 疲れた。

 どこかの森へ行きたい。

 そう思っていた。

 その日は何も用事がなかったので、本当にいくことにした。

 行先は、僕の住んでる都市から程近く、それであってとんでもなくど田舎で森林が生い茂りまくっているところだ。

 玄関で、ロープと針金を見つけた。

 ロープなんていらないかな、と思いながら、針金とセットで何となく持って行った。

 電車に乗って、ゆったりと行く。

 着くと、そこは、のどかとしか言いようがないようなところだった。

 バスがちらほらいたが、本当に良い風景だ。

 僕は、一日に数本しかない、ある村の方面のバスに乗った。

 辺りは森だらけである。

 空気がおいしいように感じる。

 とにかく、気持ちいい。

 落ち着く。

 こんなところに、来てみたかった。

 僕はただ、ボーっとしていた。

 気が付けば、もうすっかり山奥だった。

 何分くらい揺れているだろうか。

 でも、全然疲れて来ない。

 やはり、森の力はすごいのかもしれない。

 ふと、そんなことを思ったので、次の停留所で降りることにした。

 バス停の名は、すぐに忘れてしまった。

 とにかく森の中で、歩くのも一苦労だった。

 でも、山を少し登っていった。

 バスは、もう何時間も来ない。

 車もちらほら。

 ただ、蝉がぎゃんぎゃん、ずっと鳴いていた。

 蝉の音がすごくうるさい。

 僕は、この空間にいられて、とても嬉しかった。

 何もない、がある。

 それがここの良い所だと感じた。

 しかし

 暑い

 そして、休憩するところもない。

 僕は、さすがに疲れていたので、ガードレールに腰かけていた。

 


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 私が目を開くと、そこにはたくさんの木があった。

 「何だ・・・」

 そう呟いて、上を見上げた。

 すると、空ははっきりとは見えず、たくさんの木々が降ってくるようだった。

 やっと状況が飲み込めた。

 私は、落ちたのだ。

 あの時、熊に襲われて。

 よく生きていたなあと自分でも感心する。

 さてと、とりあえずどうやって上に戻るかだ。

 この石の壁を昇るにも、足場もなく、危険すぎる。

 助けを待つか・・・。

 あ!自転車!と思ったが、そんな場合ではない。

 しかも、今日は携帯を持っていなかった。

 もう、対処法はない。

 終わりだ。

 そう思い、また目を閉じた。

 


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 僕は、腰かけていると、遠くに何かが落ちているのを見つけた。

 自転車だ。

 この自転車、やけに急に倒した感じがある。

 何か動物にでも襲われたのだろうか。

 この村では、何が起こるか全くわからない。

 少し恐い気もした。

 その時、何か遠くから声がした。

 


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 しかし、私は目を閉じても落ち着かなかった。

 仕方ないから、起きていた。

 心臓の鼓動は高まっていった。

 ここはひとつ、叫んでみよう。

 「助けてー!だれか―!助けてー!」

 そう叫んでみたが、返事はない。

 やっぱり無理だよねえ。

 でも、もう一回。

 「助けて―!誰か助けて下さーい!」

 ずっと叫んでも、反応はない。

 上をぼーっと見上げていた。

 その時、顔が一つ出てきたような気がした。

 


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 僕は、その声がどこからなのか、何なのか、全然わからなかった。

 もう一度、集中して聞いてみた。

 「助けて―!誰か助けてくださーい!」

 女性の声。

 崖の下から聞こえる。

 そして、ひょこっと崖の下をのぞくと、一人の女子高生が下にいた。

 「大丈夫ですかー!」

 と叫んでみた。

 すると、

 「助けてください!道路に!」

 と聞こえた。

 「ちょっと待っていてください!」

 


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 上から出てきたのは、男の人の顔だった。

 少しやりとりをした後、その人は針金とロープを出した。

 


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 そして、針金を道路のでこぼこした部分に刺し、色々と細工をし、縄を針金に結び、縄を崖の下におろし、叫んだ。

 ものすごく念のために、持ってきておいてよかった。

 「これに掴まって登って!」

 「でも・・・」

 「縄は念のため僕もおさえているから!」

 


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 なんて優しいんだ!この人は

 あとでさっき採れたっていう野菜をお裾分けしなきゃ!

 でも、こんなロープ私で登れるかなあ。

 いやでも、戻るためだ、頑張ろう!

 


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 その女子高生は、しばらく何か考え込んだ後、縄をしっかり掴んで、力強く登ってきた。

 肩には鞄をかけていた。

 そして、道路まで何とか登り切った。

 「ありがとうございます!すごく助かりました!」

 「いやいや。こちらこそ、無事に助かってよかったです」

 その女子高生は、同年代くらいだった。

 僕は、歳をきいてみた。

 「失礼ですが、何歳ですか?」

 「15ですー」

 あれ、もしかして年下か?

 でも、まだ誕生日が来ていないのか。

 「え、じゃあ何年生ですか?」

 「え?ああ、高一ですけど・・・」

 「高一!同じ年だ!」

 「同い年!じゃあ、仲良くしようよ」

 「うん!」

 その娘は、とてもかわいかった。

 「君、ちょっと時間ある?」

 「え?うん。たくさんあるよ」

 「じゃあ、一緒に来てほしいんだけど・・・」

 「ど・・・こに?」

 「私の家」

 僕は、突然の誘いに、とても驚いた。

 いきなり僕みたいな人が女の子の家に入っていいのだろうか。

 でも、村の人と触れ合えるなんて、こんなチャンスはないと思い、すぐに返事をした。

 「行こう。じゃあ」

 「ほんと!?ありがとう!」

 それから、二人は歩きだした。

 「ところで、君は何しにここに来たん?」

 その女子高生は目を見開いて僕に問いかけた。

 「え?」

 「だって君、ここの住人じゃないでしょ?」

 「え、うん、そうだけど・・・」

 「何しに?」

 「えっと・・・いや、なんとなく」

 「都会に、飽きてきたんでしょ?」

 うっ鋭いなあ。

 女子高生は、僕の顔を覗き込むようにしてみる

 「すごいね。何で分かるの?」

 「だって、よく見ない顔だし、こんな山奥で変に嬉しそうに目を光らせていたからね」

 そうか、そういうもんなのか。

 森の空気は本当に良い。

 そして、こう、二人で歩いているのも幸せ。 

 しばらく二人で歩いていた。

 一向に森が開けてこない。

 でも、少し住宅が見えたような気がした。

 遠くを見ながら歩いていると、森が開けた。

 「あの青い屋根の古そうな家が、私の家」

 「もうすぐだ。がんばろう。」 

 そしてまた、元気を出して歩き始めた。

 「そういえば、私、さっき学校行こうとしてたんだけど、あんなことがあったから、家に戻ってきちゃった」

 「えっ!?でも私服じゃ・・・」

 「私服の学校だからね」

 そして、彼女が言った学校は、僕の家ととても近い所であった。

 「着いたよ」

 「結構いいところだねー。山に囲まれていて、僕の思った通りだ」

 「そう・・・かな。さっ入っていいよー」

 「いいの?」

 「いいよいいよーどうせおばあちゃんしかいないし」

 「両親は?」

 「ちょっと、昼間は畑出てるからね」

 さすが。

 「お邪魔しまーす・・・って、鍵かけてないの!?」

 「え?だって、かける必要なくない?」

 田舎はそんなもんなのか。

 「おばあちゃん」 

 「おや?もう帰ってきたのかい?」

 「崖から落っこって、携帯も忘れたから、今日はもう危ないと思って、帰ってきた!」

 案外軽いな、この子。

 「おやまあ。大丈夫かい?あの辺は気を付けてね」

 いやおばあちゃんも反応薄いな。

 結構おおごとだと思うんだけど。

 「ところで、どうやって崖の下から戻ってきたんだい?」

 「あの子が助けてくれたの」

 「こ、こんにちは・・・」

 「あら、いらっしゃい。ありがとう。本当にこの子、時々抜けているところがあってね。急によろよろ落ちちゃったのかもね。なんもないけど、ゆっくりしていってね

 「で、でも、さっきはでっかい熊が!!」

 「とにかく、気を付けてね。あ、そうだ。お昼ご飯は食べたかい?せっかくだから、どうかね?ここで食べていかないかい?」

 「えっ!?でも、そんな悪いですよー」

 しかし、僕はおなかが鳴ってしまった。

 「とりあえず、食べようよ!持ってきてないでしょ!お昼ごはん」

 そこではじめて気づいた。

 こんな山奥に来ているのに、ほとんど食料を持ってきていなかった。

 「じゃあ、お言葉に甘えて」

 そして、座布団に座った。

 「私も手伝うよ」

 「美穂ちゃんも今日は座ってていいよ。その子としゃべってなさい」

 「わかった」

 そして、僕の隣に座った。

 「そういえば、名前聞いてなかったね。私は美穂。君は?」

 「僕は喜良。改めてよろしく」

 「そうだ。LINE交換しようよ!最近買ったの!!」

 「いいね!」

 そういって、LINEとメアドと電話番号の交換をした。

 ここまでしあえる仲になるとは、すごくうれしい。

 「ねえ。君の家、私の学校の近くならさ、定期的に会おうよ。まだ私も学校は行ったばっかりだから、町のこととかいろいろ教えてよ」

 「そうだね!!なんだか楽しみになってきたよ!」

 そうこうしている間に、おばあちゃんが料理を持ってきてくれた。

 そうめんだったのだが、隣に、きゅうりとごまが浮いている汁があった。

 「うわあ~。冷や汁だあ~。おばあちゃん、ありがとう!」

 「冷や汁?」

 「あれ?きっちゃんは冷や汁知らないの?」

 「きっちゃん」と言われてちょっと戸惑ったが、すぐに首を横に振った。

 すると、おばあちゃんが説明してくれた。

 「冷や汁っていうのは、熊谷市っていう埼玉県の地域と、宮崎県、山形県で食べられているの。ごまときゅうりをたくさん入れてね。宮崎は魚を入れるらしいけど、私の地元は熊谷だったからね。これでいいかい?」

 「すごいですね。いただきます。う~ん。おいしい!!」

 「た~んとお食べ。美穂を助けてくれたお礼だから」

 「あっありがとうございます!!」

 「きっちゃん、これからなんかある?」

 「いや、特にないけど・・・」

 「じゃあ、この辺をちょっとうろうろしてみない?」

 「えっでも・・・」

 「大丈夫。私はこれから何もなくて暇だからさ」

 「でも、どこに行くの?」

 「う~ん。この辺何もないけど、とりあえずどっか行ってみよ!」

 「ありがとう」

 そして、冷や汁という麺をちゅるちゅるとゆっくりと一緒に食べた。

 本当においしかった。

 ごまの風味がとっても聞いていて、その上に、きゅうりのっ触感があり、めんのむにゅむにゅ感がそれとうまくマッチして、絶妙な味わいとなっている。

 よく味わうと、大葉やみょうがも入っていて、その少し来るからさや甘さも、バランスが取れていておいしかった。

 すごくくせになる味だった。

 そして、あっという間に食べてしまった。

 「すごくおいしかったです」

 「それはよかった。あなたのお口に合ったなら、うれしいわ。」

 「本当にこれはこんな暑い日だと格段においしいよねー。う~ん。満足!」

 「ありがとうございました」

 そして、少しぼーっとしていた。

 「きっちゃん、じゃあ行くか!!」

 美穂は、すごくノリノリだった。

 僕はさっさと準備をして、席を立った。

 「じゃあ、行こう」

 そして一緒に家を出た。

 「気を付けてね」

 さっきのことがあったからか、おばあちゃんはやはり美穂のことを心配していた。

 外は相変わらず蝉の音がうるさく、いろんな鳴き声が調和してハーモニーが作られているような気がした。

 青空が広がっていて、緑に囲まれた田の中にぽつぽつと古そうな家があり、とても気持ちがよかった。

 都会では、何でもぎゅうぎゅうしているから、これを見ると、なんか何でも馬鹿らしくなってきた。

 「きっちゃん、こっちー!!」

 「はーい」

 この子、こういう無邪気なとこ、可愛くて好きだわー。

 「とりあえず、適当に歩いているのもなんだし、駄菓子屋でも行こ!」

 「駄菓子屋!僕、駄菓子屋ってすごく小さなときに行ったかもしれないくらいしか記憶がなくて…だから、実質行ったことがなくて、ずっと行ってみたかったの!!嬉しいなあ」

 「え?きっちゃんの町って、駄菓子屋ないの?」

 「ないよー。というか、都会からはもう消滅したと思う」

 「そうなんだ~。残念」

 「でも、お菓子のまちおかっていうお菓子専門店ならある」

 「でも、駄菓子屋とは違うの?」

 「う~ん、ちょっと違うかな」

 「じゃあ、レッツゴー!」

 美穂は、片手を握って、元気よく歩いていた。

 「きっちゃんは部活とか入ってるの?」

 「僕は、一応テニス部だよ」

 「へえー。じゃあ、練習とか大変でしょ?」

 「まあ、確かに大変ですごくきつい。毎日練習あるし」

 「そうなんだ~。私も毎日あるよ~」

 「何部?」

 「吹奏楽部だよー」

 「へえー。すごいね。吹部って相当頑張らないとでしょ?大丈夫?」

 「うんうん。だって、楽しいもん。仲間と一緒に練習したりしゃべったりして。たまに終電ぎりぎりってこともあるけど」

 「そんなに遅くまで!?」

 「いやいや、元々終電早いし、ちょっと遠いしね」

 「まあ、確かにね」

 と、二人で適当にしゃべっていた。

 そこからさらに十分くらい経った。

 田や山に囲まれている道をぐんぐん進み、トンネルをくぐり、丘を越えて、森を抜けて、やがて、ぽつんと看板が一つ見えた。

 『だがし おかのや』

 と質素に書かれた看板の家は、少し薄汚れていて、老舗の古い店って感じもした。

 「まこ姉、やっほー」

 「おお、美穂じゃん」

 中には、若い女の人がいた。

 「ひっさしぶり!!」

 「相変わらず元気だな。ところで、後ろの、お前が連れてきた男は誰だ?」

 「ああ、この子は、都市から来て、たまたまこの村で会ったの」

 「こんにちは」

 「いらっしゃい。何もないけどゆっくりしてってー。しかし不思議なもんだな。お前が村の外のやつを連れてくるなんて。いっつもさやちゃんとかみっちゃんとかと来たり、一人で来たりしてるから。あ、最近は一人だったか」

 「そんなことないわ!」

 と、微笑ましい笑顔を見て、店内をもう一度見まわすと、自分の想像していた駄菓子屋とぴったりはまって、感動した。

 まず、小さなお菓子がいっぱいある。

 トッポとかポテロングとかが逆に無く、アメやらガムやらグミやら十円チョコやらラムネやらがあり、よく見ると、消しゴムやペンなどの文房具もあった。

 嬉しくて、都市では見たことのないグミやチョコなどを買った。

 「きっちゃん、いっぱい買ったね…」

 「いやあ、嬉しくて、さ」

 「アイス、食べよ」

 美穂は駄菓子屋のベンチに座り、一緒に食べよう、とウキウキしていた。

 そのベンチは、駄菓子屋兼バス停だった。

 バスは三時間に一本で、バス停名は「駄菓子屋」だった。

 「村にはバス停が二つあって、入口と、ここだけなの。次のバス停は村から出ちゃうから、貴重なのよ」

 「なるほど」

 二人並んで仲良くアイスを食べているのは、とても楽しかった。

 今、僕はしあわせなんだな。

 僕は、何かが満たされていくような気がした。

 


 それから二人は川に行った。

 その川はとてもきれいで、透明度が高く、いかにも清流って感じだった。

 「この水、飲めるんだよ」

 「えっほんと?」

 そう言うと、美穂は水をすくい上げ、それを飲んだ。

 「うん。おいしいよ。きっちゃんも飲んでみたら?」

 「じゃあ…」

 と言って、思い切って飲んだ。

 「うまい!こんなにおいしいんだ!」

 そのうまさは、自然の中から湧き出た、本当にナチュラルな、天然水という感じだった。

 何も手が加わっていなくて、とにかく、水そのものを入れた感覚で、幸せな気持ちになれた。

 そのまま二人で瓦の砂利に座って、買った駄菓子を広げて、グミとか食べた。

 こんなふらっと来ただけなのに、こんないい日を過ごせるなんて、美穂に会って本当に良かった。

 ど田舎の河原でボーっとするだけというぜいたくな時間を過ごせて、僕は満足を超した感動を広げている。

 とにかく、広い。

 そして、

 寂しくない。

 なんて素晴らしいのだろう。

 ちょっと砂利に寝転がってみた。

 遠い空はもう、少し赤みがかかっていて、薄暗いような気もした。

 雲一つない青く澄んだ空に包まれていると、地球を感じた。

 隣では、美穂も同じようなことをしている。

 「喜良、ありがとう」

 「僕もこんな壮大な景色を身体全体で感じることができて嬉しいよ」

 僕も、その後何か言っていたようだが、自分でも出てきた言葉を理解することができていなかった。

 そのまま、すとんと眠りに落ちていた。

 目を開けると青色、いや、藍色というような空が広がっていた。

 「起きた?」

 「うああ!」

 「ふふ。びっくりした?」

 「美穂か…ごめん寝てて」

 「喜良があまりにも気持ちよさそうだったからさ…おばあちゃんにも、遅くなるって言っておいたし」

 「そっか…」

 「それより、今更だけど、お友達紹介するね。こちら、さやとみく」

 「よろしく」

 「よろしくね。もうこんな時間だけど」

 「よろしく!!」

 「まあ、こんな感じで。また今度四人で遊びたいね。また喜良がここに来るかわからないけど」

 「美穂の話聞いていたら、素敵な方だなって思いました」

 ん?僕は特に何もしてないぞ?

 「またよろしくね!」

 「ちなみに、さやは高二、みくは、中二なの。だから、ここから一番近い都市までは一緒だけど、そこから私は更に行くから、喜良の町までは結局私だけだね。

 「三人とまた会った時に遊びたい。せっかくだから、メアド交換でもしない?」

 そう言って、LINE交換をした。

 今はこうやってつながっているから便利だなあ。

 そして、三人で美穂の家に行き、僕は荷物を取った。

 二人とも自転車で来ていて、バス停まで送ってくれた。

 バス停までの道も、会話が途切れることはなかった。

 しかし、最終バスまで時間がなかったので、美穂のもう一つの自転車を貸してもらった。

 そして、四人でバス停まで自転車で急ぎ、着いた。

 「じゃあ美穂、ありがとう、今日は」

 「いやいや、私はまた都市でも会えるでしょ」

 「そうだね。二人もせっかく来てくれたのにごめんね。僕がもたもたしてたから」

 「いえいえ、こんな短時間でも楽しかったからいいよ」

 「また遊ぼうね」

 そう言葉を交わすと、バスが近づいてきた。

 時刻は十八時三十二分。

 「じゃあ、またね。ありがとう」

 「ありがとうございました!!」

 僕がそう言うと、バスの扉が閉まった。

 手を振った。

 すると、あちらも手を振ってくれて、少し走って見送ってくれた。

 「楽しかったなあ」

 そう呟き、ガラガラの座席に座る。

 そこから三十分、そして、真っ暗になった空間の中、また電車で三十分。

 母には早いとこメールして、遅くなると告げていた。

 僕の家の最寄り駅に着いた。

 降りるとやはり住宅街であった。

 日本は、こんなにいろいろな顔があって、面白いな、と感じた。

 しかし、村がすごく懐かしく思えて、寂しくなった。

 帰ろうか。

 そう心に留め、自転車を走らせた。

 

 

 

こんにちは。栄啓あいです。

今回の話はどうでしたか?

都会に住んでいると、結構窮屈な生活になってきますよね?

そんなとき、山や川、田んぼなどの広がっているところへ行ってみてはどうでしょう?

きっと開放感があり、心が清らかな気持ちになるかもしれません。

東京だと、八王子市の裏高尾や、檜原村奥多摩などがとてもきれいでいいところです。

これを書いているいる時は、「ど」田舎に行くことがなく、想像で書いていました。

村での人の交流というものは、とても大切だなあ、と思い、理想を並べていました。

しかし、実際にそのようなところへ行くと、当然そんな偶然はなく、厳しいものでした。

そんな中でも、助けてくださった方はいて、とてもうれしいこともたくさんありました。

田舎に住むというのは、それなりに大変ですが、良いところがとてもたくさんあるということをこの小説で伝えたかった次第です。

私の作品は、もう一つあります。ぜひそちらもよろしくお願いします。