都立武蔵文芸部 デジタル部誌サイト

都立武蔵文芸部の部誌のデジタルVerです。個々の作品を掲載します。予告なく作品の変更・削除を行う可能性があります。ご了承ください。

朝(あした)

 朝、目覚める。

 様々な喧騒の中、私を起こす声がある。

 「水里!!早く起きて!!」

 そして、瞼を開けたり閉じたりしている。

 まだ眠いよ…。時間的にまだ大丈夫じゃん。

 そう思い、また眠る。

 そうするとすぐに、「水里!!!」という怒鳴り声が聞こえる。

 パジャマを脱ぎ、洗ったばかりのシャツを着て、その他もさっさと着替える。

 そして、靴下も吐き、階段で一階に降りる。

 洗面所に行き、まずは顔を洗い、次に髪をとかして整えて、ささっと結んで、リビングへと向かう。

 この、髪を結ぶのが、意外と時間がかかるんだよなあ。

 そして、リビングに入ると、母が忙しなくお弁当を作ってくれている。

 私はその横で、水筒にお茶を入れて、それをバッグに入れる。

 その勢いで、リュックの上にある、前日の夜に用意しておいたハンカチと自転車の鍵をポケットに入れる。

 そのままもう一度台所に行き、お茶碗にご飯をよそって、練り梅の入った瓶を持っていく。

 「いただきます」と小さく言い、練り梅をご飯の上にのっけて、箸でそれをならす。

 ならしたら、急ぎめで、バランスよくお米と練り梅が微妙に残らない程度に箸でつかみ、口に運ぶ。

 うん。これだけでもやっぱりおいしい。

 私は塩だけで漬けた真っ赤な紀州南高梅がだいすきなので、お米があってもなくてもいくらでもおいしく食べられる。

 そして、一杯分をペロッと食べきって、いろいろやっているうちに出来上がったお弁当を受け取り、バッグに詰めて、リュックを背負い、玄関に向かう。

 「忘れ物ない?」

 「大丈夫!!」

 このとき、いつも一瞬不安になるが、もう時間もないので、そう答えておく。

 「いってきます!」

 「気を付けてね!」

 そう交わし、外へ出る。

 完全に起きてからここまで、十五分くらいだ。

 自転車の籠にリュックを入れて、サドルにまたがり、グイっと発進する。

 今日は、昨日のすぐれない天気とは対照的に、雲一つない晴天であった。

 しれでいて、とても寒い。

 昨日とは裏腹に、凍えるような寒さだ。

 それでも、一生懸命こいで、こいで、こぎまくる。

 途中、いつも登校中の自転車で見かける人を今日も見かけて、そのまま突っ走る。

 普通の人よりは割と速いといつも言われるが、私はゆったりとしっかりとこいでいるだけだ。

 楽に速くなるなら、ありがたい。

 そして、歩いたら二十分くらいかかる駅の駐輪場まで、五分で着いた。

 自転車の鍵を抜き、それをリュックに入れて、ついでに、ICカードを取り出し、駅のホームに向かう。

 階段もあるのだが、エレベーターの方が近道なので、がっとエレベーターのボタンを押し、待つ。

 すぐにエレベーターは来て、乗り込み、後から入る人が入り切ってドアを閉める。

 扉が開くと、電車の座席を確保するために、なるべく早足で向かう。

 ホームに着き、学校の最寄り駅に降りたときに会談が近いドアの所に並ぶ。

 ホームにはすでに会社員の人などがたくさんいた。

 座れるかなあ、といつもドキドキしている。

 何せ、長い時間乗るので、座らないと大変なのだ。

 電車が来て、乗り込み、空いている座席に飛びつこうとする。

 しかし、あいにくその日は、埋まってしまった。

 おとなしく待つと、次の駅で座れた。

 そして、少しだけ本を読む。

 何か月もかかっている「暗夜行路」を少しずつ…。

 本を読んでいると、朝早いので、眠くなってくる。

 五分くらいで本を閉じて、外を眺める。

 遠くには、きれいに山々が見えた。

 とても晴れているので、見やすく、美しい。

 私はそれを見ながら、窓枠に頭を預け、眠ってしまった。

 


 この喧騒は、聞いたことがある。

 窓の外にはどこかのホーム。見たことがある。

 ここは…学校の最寄り駅だ!!

 急いで降りる準備をし、人をかき分けて頑張って降りようとする。

 発車メロディーがもう流れている。

 人が邪魔でうまく動けない。

 「一番線、ドアが閉まります」

 そのアナウンスがあった直後、私は窮屈な人の壁から、ぴょんっとジャンプしてホームに降り立った。

 そのすぐ後に、ドアは閉まった。

 あぶなかったあ~。

 そして、人の流れに乗り、階段を降りる。

 改札を出て、寒くても陽が気持ちいい空の下でゆったりと歩く。

 しばらく歩いたところで、通り道にある公園のベンチで小休止。

 ひなたぼっこできて気持ちいい。

 私はその下で、本を読む。

 そして、アラームをかけ、その日差しの中、少し寝る。

 


 アラームが鳴り、すぐに学校に向かう。

 とはいっても、そこまで寝ていないので、どっちにしろ着くのは早い。

 靴を履き替え、階段をゆっくり上り、疲れながらもなんとか教室に着き、リュックを下ろす。

 ロッカーから本日分の教科のセットを全部出して、机の中に入れる。

 そして、腕を伏せたら、また眠りに落ちてしまった。

 


 次に起きたときは、朝のSHRが終わり、先生に起こされた時だった。

 今日も有意義な朝を過ごせなかったかもしれない。

 私の朝は、考えてみれば、いつも寝ている。

 まあ、

 また、

 明日があるさ

 


 「朝には夕べあらんことを思ひ、夕べには朝あらんことを思ふ」 徒然草92段「ある人、弓射ることを習ふに」 改変

 

 

 

こんにちは。栄啓あいです。

この話は、何気ない朝の風景を「水里(みさと)」という人に投射して書きました。

明日は、どんなことが起こるだろう、と毎日考えて朝を過ごしていると、もう次の朝が来てしまう。

毎日代わり映えのない日常を、少しずつ、ゆっくり変えていくのも人生の楽しみだと思います。

短い話ですが、ぼーっとでも読んでもらえたなら、嬉しいです。

私の作品は、これで終わりです。

一作目の「村と都市」を読んでない方は、そちらもどうぞよろしくお願いします。