「トリック・オア・トリート〜！」 ガチャリと開いた扉の向こう、玄関先に立つ私を見て、久志は目を丸くした。顔を見るのは二ヶ月ぶりだが、少し背が伸びたような気がする。一瞬の沈黙の後、ため息を吐きながら弟は言った。「おかえり、姉ちゃん。お菓子なら…

ふと目を離した隙に、シャーペンがポッ○ーになっていた。 こう言ったところで誰も信じないのは勿論分かっている。事実、自分が他人に言われたとしても、まず間違いなく疑うだろう。夢でも見ているんじゃないか？現実逃避をするな、早く目の前の問題に集中す…

恋の成就というのには様々な要因が複雑に折り重なって成立している。お互いの気持ちの揺れ動き、周囲の環境などなど…。そのなかの一つでも違えばそれは成り立たなくなってしまう。そんな繊細な恋愛がうまくいくように事を運ぶ仕事をご存じだろうか？そうキュ…

あたしはアイドルの類があまり好きではない。生まれ持った顔ガチャ親ガチャで勝ってそういう職業につけたのだから。世間一般も「かっこいい」と気持ち悪いほどに囲って中身を見ようとありゃしない。気色悪い。 「有咲〜〜ノート写させて」 「またぁ？」 「今…

今週もまた、あいつがやってくる。なんでもない顔をして、何事もなかったかのように颯爽と、俺の前に現れるだろう。薄い紙で武器を隠して。 初めてあいつが来たのは、授業中だった。あいつが時間を全て支配しているのをこの目で見るのは、初めてだった。バス…

このたび、私たち文芸部の作品をご覧になって下さり、ありがとうございます。都立武蔵文芸部高校部長の卯月望です。 今年初めての部誌がようやく発行できることとなり、嬉しい限りです。去年に引き続き、新型コロナウイルスの影響もあって例年通りとはいかな…